プロローグ
2000年代後半から2010年代、日本の音楽シーンには一つの分かりやすい「型」があった。
ギターを抱え、自分で作った曲を、自分の言葉で歌う女性シンガーソングライター。
YUI、miwa、阿部真央。少しタイプは異なるものの大原櫻子、そしてあいみょん、足立佳奈――。
この時代をリアルタイムで見てきた人なら、数年おきに新しい女性シンガーソングライターが現れていた印象を持っているのではないだろうか。
ところが2020年代に入ると、このタイプの新人を目にする機会が明らかに少なくなったように感じる。
シンガーソングライターは、どこへ行ったのだろうか。
「ギターと歌」
YUI
この流れを語るうえで、やはり外せないのがYUIだ。
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福岡県出身のYUIは、地元・福岡の音楽塾に通いながら作詞・作曲を始め、路上ライブなどで音楽活動を続けた。その後、ソニー・ミュージックのオーディションをきっかけにデビューへの道をつかみ、2005年に「feel my soul」でメジャーデビューした。
デビュー当時まだ17歳。アコースティックギターを抱え、自ら作詞・作曲した楽曲を歌うその姿は、まさに当時の「シンガーソングライター」を体現するものだった。
2006年には自身が主演した映画『タイヨウのうた』の主題歌「Good-bye days」をYUI for 雨音薫名義で発表。2007年には「CHE.R.RY」が大ヒットし、その後も「My Generation」「LOVE & TRUTH」「again」「GLORIA」など数々の楽曲を送り出した。
YUIの特徴は、単に「自分で曲を書く女性歌手」だったことだけではない。
ギターを抱えて歌う本人の姿そのものが、楽曲と強く結び付いていた。
華美な演出よりも、ギターと歌、そして本人が書いた言葉で聴かせる。そのスタイルが広く支持され、「ギターを持った女性シンガーソングライター」という存在を2000年代のメインストリームで強く印象付けた一人だった。
miwa
その後、2010年にはmiwaが「don't cry anymore」でメジャーデビューする。
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miwaの公式プロフィールを見ると、15歳ごろから女性シンガーソングライターの影響を受けてオリジナル曲を制作。自宅で弾き語りしたデモテープを持ってライブハウスへ飛び込み、ライブ活動を開始したという。
そして2015年には、日本武道館で「ギター1本弾き語り」の2DAYS公演まで実現した。
まさに「ギターと歌だけで勝負するシンガーソングライター」を象徴するキャリアだった。
阿部真央
阿部真央もまた、自身の感情や人間関係をストレートに歌詞へ落とし込むスタイルで支持を広げた。
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転機となったのが高校進学だった。好きだったアヴリル・ラヴィーンをコピーするためにギターを始め、周囲からオリジナル曲を書くことを勧められたことをきっかけに、自ら曲を作るようになる。
高校2年生では「YAMAHA TEENS' MUSIC FESTIVAL」大分大会で優勝し、全国大会でも奨励賞を受賞。高校卒業後に上京し、2009年、19歳でアルバム『ふりぃ』からメジャーデビューした。
大原櫻子、あいみょん、足立佳奈
さらに大原櫻子、あいみょん、足立佳奈らが登場する。
2013年、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』のヒロインオーディションで5,000人の中から抜擢され、劇中バンドMUSH&Co.のボーカルとして「明日も」でCDデビュー。ギターを抱え、力強く歌う姿は若い世代の支持を集め、その後は自身のシグネチャーギターが発売されるほど「ギター女子」のイメージを強く持つ存在となった。
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| 大原櫻子 |
足立佳奈は2014年のLINE×SONY MUSICオーディションでグランプリを獲得し、2017年にメジャーデビュー。あいみょんも2016年に「生きていたんだよな」でメジャーデビューし、その後「君はロックを聴かない」などを発表。2018年にはNHK紅白歌合戦にまで到達した。
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| あいみょん |
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| 足立佳奈 |
もちろん、それぞれの音楽性は違う。
それでも、
「本人名義」「自作曲」「ギター」「等身大の歌詞」
という要素を中心に据えた女性ソロアーティストが、2000年代後半から2010年代に次々と登場したことは確かだ。
ところが2020年代、後継者が思い浮かばない
2020年代の状況
「あいみょんの次に登場した、ギターを持った大型女性シンガーソングライターは?」
そう聞かれると、意外なほど答えるのが難しい。
もちろん、シンガーソングライター自体が消滅したわけではない。
にしな、由薫、汐れいらなど、現在もシンガーソングライターとして活動する若いアーティストはいる。
そして非常に興味深い存在がtuki.だ。
tuki.は13歳からTikTokに弾き語り動画を投稿し、2023年に「晩餐歌」でデビュー。同曲は大きなヒットとなった。本人へのインタビューでも、小学生のころにギターを始め、ほどなくオリジナル曲を書き始めたことを明かしている。
つまり、「若い女の子がギターを持って、自分で曲を書いて歌う」という文化そのものは2020年代にも生きている。
ただし、世に出るまでの経路がまるで違う。
「ライブハウスからデビュー」が「SNSから発見」に変わった
miwaの経歴は、この違いを非常に分かりやすく示している。
ギターを弾く。
曲を作る。
デモテープを作る。
ライブハウスで歌う。
関係者に発見される。
レコード会社からデビューする。
かつては、これがシンガーソングライターの王道の一つだった。
一方、tuki.はTikTokへの弾き語り投稿から注目を集めた。
楽器を演奏して曲を書くところまでは同じでも、観客へ到達するためにライブハウスを経由する必要がない。
スマートフォン一台あれば、自宅から何百万人へ歌を届けられる。
さらに現在ではDTMによる楽曲制作も身近になった。
ギターやピアノでコードを鳴らしながら曲を書くことだけが「一人で音楽を作る方法」ではない。
PC上でビートを組み、トラックを制作し、ボーカルを録音する。ボーカロイドを使って楽曲を発表し、後から自ら歌う側へ回ることもできる。
「一人で曲を作って歌う」という意味では、むしろシンガーソングライター的なアーティストは大量に存在する。
しかし、私たちは彼らを必ずしも「シンガーソングライター」と認識していない。
シンガーソングライター
「シンガーソングライター」という肩書き自体が薄れている
ここが2020年代の大きな変化ではないだろうか。
かつて「自分で曲を書いて、自分で歌う」ということは、それ自体がアーティストを説明する特徴だった。
だから「シンガーソングライター」という肩書きに意味があった。
しかし現在では、作詞・作曲・編曲・歌唱の境界が以前より曖昧になっている。
一人で楽曲制作の大部分を完結させるアーティストもいれば、ネット上のクリエイター同士で制作するケースもある。
楽器もアコースティックギターとは限らない。
そして、音楽との最初の接点もテレビやCD、ライブハウスだけではない。
TikTok、YouTube、サブスクリプションサービスなどから、突然一曲が広がることも珍しくなくなった。
日本レコード協会も1986年から「音楽メディアユーザー実態調査」を継続しており、音楽ユーザーを取り巻く環境や意識の変化を追っている。
音楽を「作る方法」だけでなく、「発見される方法」まで大きく変わったのである。
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| YUIとmiwaが対談した際の写真 |
あいみょんは「最後」なのか
こうして振り返ると、あいみょんは非常に面白い位置にいる。
2016年にメジャーデビューした彼女は、自分で曲を書き、ギターを持ち、本人の名前と楽曲が強く結び付いた、昔ながらのシンガーソングライター像を持っている。
その一方で、ストリーミングやSNSによって楽曲が長く聴かれる現在の音楽市場にも完全に適応した。
言ってみれば、2000年代型のシンガーソングライター文化と、2020年代型の音楽市場をつなぐ存在にも見える。
そして2026年現在、「あいみょんの次」と呼べるほどの規模で、同じようなスタイルから国民的な知名度まで到達した若い女性アーティストを探そうとすると、途端に難しくなる。
これは、才能あるシンガーソングライターが生まれなくなったからではないだろう。
むしろ逆なのかもしれない。
シンガーソングライターは消えたのではなく、「溶け込んだ」
もし2005年に音楽を始めた15歳と、2026年に音楽を始めた15歳が同じ才能を持っていたとしても、その二人が同じ道を歩むとは限らない。
2005年ならアコースティックギターを買い、曲を書き、路上やライブハウスで歌っていたかもしれない。
2026年ならスマートフォンで弾き語りを撮影してTikTokへ投稿するかもしれない。あるいはPCでトラックを作り、そのままネットへ公開するかもしれない。
やっていることの本質は、それほど変わっていない。
自分で曲を作り、自分で歌い、自分の言葉を誰かに届ける。
変わったのは、そのために使う道具と、世の中へ出ていくための入口だ。
だから「シンガーソングライターがいなくなった」と感じるのは、半分正しく、半分違う。
確かに、
YUI → miwa → 阿部真央 → 大原櫻子 → あいみょん → 足立佳奈
と連想できた時代のような、「アコースティックギターを抱えた若い女性シンガーソングライター」という明確なカテゴリーの存在感は薄くなった。
だが、自分で曲を書き、自分で歌う若者が消えたわけではない。
その文化はTikTokへ、YouTubeへ、DTMへ、ストリーミングへと枝分かれしていった。
もしかすると2020年代は、シンガーソングライターが減った時代ではない。
「シンガーソングライター」という言葉だけでは、彼らを分類できなくなった時代なのかもしれない。








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